捨て犬タマ

 

私は犬が非常に好きで、生まれたときから犬とともに生きてきた。
キブツにいるようになってから、キブツが犬にとってとても環境の良い場所だと、
常々思っており、日本に残してきた犬をキブツに連れてくることさえ考えた。
緑豊かで自然に恵まれた環境にあるキブツには、世界で一番幸せな犬達が、
一日中自由に遊びまわり、日向ぼっこをしている風景が見られる。
人の名前よりも犬の名前を知っているほど、キブツの犬に通じていた。
いつかキブツで犬を飼おうと考えていたが、いかんせんレゲブが犬嫌い。
犬は汚い・くさい・うるさいの三拍子と考えており、状況は多難だった。
これだけ犬のいる場所で育ってきたのになぜ?と疑問だったが、
まさに逆作用したようで、犬のいるところで育って犬嫌いになったようだ。
「犬嫌い」と「犬好き」が理解し合えることは不可能に近い。
確かに無駄吠えする犬や、しつけのなっていない犬は困り者だが、
それは犬の所為ではなく飼い主の責任であり、犬を憎む理由にはならない。
レゲブにはいつも、どれほど犬が賢い動物か、愛情豊かな動物か、
子供の教育に良いか、パートナーとしてすばらしいかを語っていた。
犬を飼いたいと思いつつも、協力者なし、どうなるか先の読めない状況では、
責任を持って飼う自信がなく、無理だとあきらめていた。

そんなある日、キブツで見知らぬ、みそぼらしい犬を見かけた。
明らかに誰かがキブツに捨てていったのだ。よくあることだ。
胸が痛んだが、どうすることも出来ず、声をかけただけだった。
その日より食堂付近でその犬を見るようになり、食堂で働いている私は、
餌を与えてはいけないとわかりながらも、あまりに不憫で水を与えたり、
残り物を与えたりと、少しずつ世話をするようになった。
たまたま夜、食堂を通りかかると、その犬は食堂のテラスで寝そべり、
私が毎日世話をしている人間だと気付きもしなかった。(服が違うから)
そのうちこの捨て犬のことはキブツの話題となり、どうするのかとなった。
子供たちは「アミーゴ」と名づけかわいがり、犬も問題を起こさなかった。
一週間程経つと、次第に私が餌を与え、かわいがる人間と認識し、
その犬は私の後をついてくるようになってしまった。
「しまった、まずいことになった・・・」と、胸が痛んだが、
その犬はどんどん懐いてくるようになり、放って置くことは出来きなかった。
レゲブは、「餌だけ与えて、放っておけばいいじゃないか」と言ったが、
「野良犬のようにして世話だけしているわけにはいかない、
すでに私を飼い主と認識してしまい、もともと誰かに飼われていた犬は、
飼い主を必要とするんだ。」と力説。
その犬は非常に人懐こく、毛並みもしっかりしており、推定年齢1歳。
オーストラリアのディンゴに似ている。

すったもんだの末、私は選択の余地なくその犬を飼うことに決めた。
キブツの住民もその犬をどうするか話題にしており、私が飼うと決めた時は、
皆が、「それはすばらしい、美しい犬だし、みな喜ぶよ」と大絶賛だった。
レゲブは「君が世話するのはいいけど、僕は一切面倒はみないよ」と断言。
早くも前途多難を感じるが、一番かわいそうなのは捨てられた犬の方である。
しつけもきちんとされており、首輪や綱も喜んでつけた。
シャンプーも泣き声ひとつ出さず、気持ちよさそうにした。
「タマ」と名づけ、今ではその名もわかるようになった。
以前の飼い主が、タマをかわいがっていたことはタマを見ればわかる。
しかし、なぜキブツにいたのか?本当に捨てたのか?
動物病院に連れて行くと、タマの首ねっこにチップが埋め込まれていることが判明した。
チップが埋め込まれている犬は、飼い主が大切にしている可能性が高い。
その番号で飼い主が判明するはずなのだが、未だ病院から連絡がない。
連絡が来るまでタマを私達の犬として登録することも出来ない。
しかし、そんなことはお構いなしで、今では毎日一緒に自然を散歩し、
タマは、世界一幸せなキブツの犬として満足している。
あれほど犬に触ることを嫌がっていたレゲブも、満面の笑顔でかわいがっている。
タマを連れ添って一人でトレッキングに出かけたりしているほどだ。
「餌をやってもいい?」などと、嬉しそうに聞いてくる。
これからどれほどの時間をタマとともに過ごしていくことが出来るかは、
動物病院の連絡によるが、すでにタマは私達の一部になっている。
レゲブにとっても、犬を理解する良いチャンスを得た。
犬を飼うことによって問題も生じるだろう、しかし、これも又良し。
私達の生活に、一粒のスパイスが加わり、より味わい深くなったのだ。

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