The Gatekeepers 

thegatekeepers

第85回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた「The Gatekeepers」を鑑賞。非常に面白かったです。

このドキュメンタリーは、イスラエルの情報機関であるShin Bet(イスラエル総保安庁)の長官を務めた人物たちの証言と記録映像で成り立っており、国内の監視役として任務した彼らの目から見た6日間戦争(1967)後のイスラエルを見ることができます。

まず、Shin Betとは何ぞや?というと、イスラエル国内を監視する情報機関、いわゆる秘密警察。英語ではISAまたはShin Bet、イスラエルでは通称「Shabak(シャバク)」と呼ばれます。彼らの主な任務は、テロ組織の摘発や諜報活動、政府高官の安全確保、国防軍のピンポイント暗殺への情報収集など、まさに国内の治安を守るための秘密エージェントたち。

ドキュメンタリーでは、6人の元長官たちが登場し、その都度おこった事件の証言、彼らの任務へ思いが語られていきます。冒頭で登場するYuval Diskinは、テロリストのピンポイント暗殺でターゲットのみ「きれいに」達成されることに満足するが、その後、日常のふとした時に、何かがおかしい、自然ではないという疑問を感じる。また、6人の中では一番古いAvraham Shalomは、Shin Betのモラルが問われたバス300系統のハイジャック事件で、逮捕時生存していた二人のテロリストが、リンチによって死亡したことについて、テロとの戦いにモラルは存在しないといいます。

1967年の6日間戦争後、Shin Betの活動の中心はテロ活動の監視となり、疑わしきパレスチナ人を一日に何百人と連行し尋問することとなります。歴代の首相もパレスチナとの交渉など全く念頭にはありませんでしたが、イツハク・ラビンによって初めてパレスチナとの共存が青地図となって登場するのです。当時長官だったCarmi Gillonは、ラビン暗殺を阻止できなかったため辞任しますが、その彼がオスロー合意後のイスラエル国内での反ラビン運動の高まりに危機感を感じていたこと、そして、阻止できなかったことへの無念、その後のイスラエルの変貌など、映像と共にその当時を思い起こすと、ラビン暗殺がどれほどのドラマをこの国にもらたしたかを実感します。ハマスがオスロー合意後に自爆テロを多く実行したのは、イスラエル国民の感情を反和平にさせるためであり、右派の反ラビン活動を活発化させるためでした。

オスロー合意、そしてラビン暗殺の一連の出来事は、私のイスラエル人生ともリンクするので、感情なしで見ていることはできません。現在のイスラエルの状況は、オスロー合意とラビンのもたらした結果だ、と言われますが、私はラビンが同朋ユダヤ人の手によって暗殺されたことを、大半の国民が問題視していないことこそ、現在のイスラエルの問題の一つだと感じます。

ドキュメンタリーでは、インティファーダ、自爆テロ、ユダヤ人テロリスト、ピンポイント暗殺など、その後のShin Betの活動と証言が続きます。たった一人のテロリストの暗殺成功を喜び、その代償に多くの国民が自爆テロで死亡することが勝利というのか?オリーブの畑が広がり、ロバに乗った老人、子供が畑仕事をし、料理のおいしい香りが漂うアラブの美しい村を歩くのが好きだという元長官、しかし、必要となれば、即座にその平和な風景を破壊しなければならないパラドックス。

この元長官たちは、イスラエルのTVではよく目にする人物たちなので、びっくるするほどの新しい証言はありません。しかし、ドキュメンタリーとして非常に分かり易く、丁寧な作りなので、違った角度からイスラエルを知るためには、素晴らしい作品です。

最後に、ドキュメンタリーでも話題になっていた、46年前、6日間戦争直後にイスラエル知識人のレイボビッチ(Yeshayahu Leibowitz)が指摘した有名な言葉です。

「戦争に勝利し占領したパレスチナを抱えることは、今まで築き上げてきたユダヤの社会性を崩壊させ、ユダヤ人は支配者となり、モラルは低下し、言論の自由、思想の自由を崩壊させ、イスラエルはShin Bet国と化す。」

ドキュメンタリーでは省略されていましたが、レイボビッチの言葉は「植民地を有した大国が崩壊したように、この国もまた崩壊する。そうならないためには、パレスチナを放棄するべきである」と続きます。勝利に酔いしれていた当時は、誰一人としてレイボビッチの言葉を聞き入れる者はいませんでしたが、現在のイスラエルの状況は、まさに彼が指摘した状況にあるといっても過言ではないような気がします。

さて、日本では上映されるのでしょうか?そのためにも、アカデミー賞獲得を願いましょう。
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The Gatekeepers 」への2件のフィードバック

  1. 私もこの作品を飛行機の中で見て、大変興味深かったです。特に最初の長官のめがねのおじいちゃん、アラブ人をウサギを追いかけるように追いかけたとか・・・・アメリカが9.11でテロ行為にあったときにも、今更ですか?的な表情がリアルだった。

    • さとつさん、コメントありがとうございます。
      日本人にはなかなか分かりにくい内容も含まれていますが、興味深く感じてもらえて、とても嬉しいです。いろいろな角度から、この国の問題を考えることができる良作ですね。

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